先入観の恐ろしさ

アトピー治療 説明不足…ステロイドへの不信感(読売新聞)

アトピー性皮膚炎の患者の方々の悩み苦しみを見聞きするにつけ、心を痛めている。
記事には「治療の基本は炎症の程度に釣り合った強さと量のステロイド薬を一定期間、粘り強く使うことだ」とある。
そうすることで、いずれは減薬・休薬することも可能になるそうだ。
問題は、その治療の過程が、患者やその家族にきちんと伝わっていない点である。
フランシス・ベーコンが「4つのイドラ」という先入観による誤りを指摘しているが、人は誰しも先入観の虜となってしまうものである。
いかにその先入観から脱け出すかが、人類の発展と幸福につながる鍵となる。
ステロイドの問題も、ステロイド使用による被害を見聞きすることで「ステロイドを使いたくない」という観念に囚われてしまう。
この先入観を持ってしまうのは、ある意味仕方のないことだ。

しかし、その先入観からさらに悲劇が生まれる。
それも、別の先入観によってだ。
「漢方」と聞くと、我々一般人は何やら身体に良さそうなイメージを受ける。
西洋医学の薬を用いるよりも、漢方薬を用いた方が副作用が少ない、そう思ってしまう。
実際にそのような面もあるだろうが、漢方薬であっても薬は薬、適切に用いなければならない。
今回はその「漢方」という言葉から生まれるイドラが被害を拡大してしまった。
アトピー性皮膚炎の患者に処方された「漢方クリーム」に「最も強い」ステロイドが含まれていたのである。
このクリームを処方していた医師は天然素材でステロイドが含まれていないと思っていたそうだ。
患者どころか、医師も「漢方だから安心だ」という先入観に囚われてしまったのである。
「漢方クリーム」には当初はステロイドが入っていなかったが、途中からはステロイドが入るようになったとも言われている。
今回、ステロイド入りの「漢方クリーム」を処方し続けていた医師が、実際にはどのような認識を持っていたのか、ステロイド入りであったことに途中からは気がつく余地がなかったのかなどは今後の捜査で明らかになるだろう。

インフォームド・コンセントという言葉はかなり普及した。
「説明ある同意」と訳される、医師が治療の際には患者にその治療方針を説明し、同意を得ることを基本とするという意味の言葉だ。
この過程で、本来ならば患者が先入観から抜け出さなければいけない。
「治療の基本は炎症の程度に釣り合った強さと量のステロイド薬を一定期間、粘り強く使うことだ」
という説明を受けることで。
それが「漢方クリーム」の存在によって、先入観から抜け出すことができなくなってしまった。
今回の事件は医療関係者だけでなく、全ての人が先入観の恐ろしさを意識しつつ、物事に対処しなければならない重い教訓となった。

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