「衆悪之必察焉。衆好之必察焉」…続編

「衆悪之必察焉。衆好之必察焉」…続編

男性職員からの報告である。
当事務所に、20代後半の女性労働者が労務相談に訪れた。
労働法の関係で有名な社労士だと、私を頼りに訪ねてきた労働者だ。
その女性は、今風の美人だが、生気がない。
聞けば入院施設がある病院で、会計事務をしているという。
この事務員は、感染症の影響で、
毎日、大勢の患者が病院を訪れるため、
診療時間内に仕事が終わった例がなく、
毎日感染の不安に駆られながら、
午後10時ころまでの残業になっていたという。
就業規則に定められた終業時刻は6時だから、
毎日4時間が残業だ。
しかも、この2か月というもの、満足に休憩時間が取れていない。
そうであるにもかかわらず、残業代は支給されていないという。
そうした境遇改善を申し出たところ、
上司からこっぴどく叱責され、その結果、精神に支障をきたし
現在、心療内科のお世話になっているそうだ。
そこで休職期間中の今、相談に来たのだという。

当事務所の男性職員はまだ若いこともあり、相談者にかなり同情的で、
すぐさま私に報告をしてきた。
「所長。いくら感染症の影響でも、病院の対応はひどすぎますよ。」
と、興奮冷めやらぬ口調で迫る。
私は言う。
「●●君。感情移入するのもいいが、事実は確認したのか?」
職員は、すぐさま
「彼女が嘘をつくはずはありません。」
と断固譲らない。
「そうかな。人は自分の立場を守るためには、嘘をつくことがある動物だよ。
早速、彼女の職場に事情を問い合わせてごらん。」
職員は、半信半疑で、相談者の職場に連絡を入れた。

そうしたところ、幸いにも社労士が顧問として入っていたため、
その社労士にご足労願い、当事務所で、
先の女性労働者について事情を聴いたところ次の事実が判明した。

1 彼女が担当した経理事務に、不正処理の疑いがかけられていること
2 事情を聴こうとすると、調子が悪いと言っては早退すること
3 最近はメンタルを理由として、長期にわたり欠勤していること
4 確かに彼女がいう時間外労働については問題として認識しているが、現在その実態を調査していること
 
これを聞いた当事務所の男性職員は青くなった。
「所長が言ったとおりです。人は見た目では判断できませんし、
一方の言い分だけを聞いたら誤った判断をしてしまいます。」
間髪入れず私は言った。
「そうだろ●●君。だから、裁判という制度があるんだよ。
意見が衝突する双方の意見を、公正中立な立場で聞き、事実と証拠で判断する。
それが裁判官の役割。
予断と偏見を持ったら駄目だ。
美人だとか、可哀想だとかは、まず関係ない。
事実と証拠に照らし、どちらの言っていることに信憑性があるか。
どちらを救ってあげなければならないか。
総合勘案して、判断しなければならないと日頃から言っているだろう。」
「そのとおりです。まだまだ私は先生の下で、
勉強させていただかなければなりません。」

そこで、
「衆悪之必察焉。衆好之必察焉」
「大勢が嫌うからといって、自分で確認せずに鵜呑みにすべきではない。
大勢が好むからといって、自分で確認せずに鵜呑みにすべきではない。」
を思い出して欲しい。

自分の目と、耳と、経験で、事実を確認すること。
これが、社会保険労務士の業務でも大変重要であるという話でした。

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